2026年10月7日掲載

十月の俳句鑑賞

今月の名句

この樹登らば 鬼女となるべし 夕紅葉

三橋鷹女

昭和11年作。(生没年:明治32年〜昭和47年)

解釈

 この句に出会ったとき、目の中に紅葉の色がまず飛び込んできた。次に化粧に隠された恨み、妬みなど女の隠された情念が、心に鋭く突き刺さった。能の鬼女の世界。吊り上がった目、牙の幽玄の世界でもある。紅葉の表す短日の命を悲しくも華やかに謡いきっている。決めの句。

 

批評

 鷹女は群れることのなかった俳人である。原石鼎に短期間指導を受けた。

 本人は晩年の「羊歯地獄」の序で「一句を書くことは、一片の鱗の剥奪である。」と言っている。自分の精神と体を剥ぎ取る痛みと覚悟が痛切に伝わる。

 文学というより自己を責め立てて督励する厳しい生き方である。この気迫、姿勢から昭和二十五、「白露や死んでゆく日も帯締めて」という諦観と自得の句をものしている。

 わが俳壇でこれほど寸分の隙間のない緊迫を、一貫して追い求めた女性俳人を私は知らない。千葉県成田の人。

2026年10月1日 記