2019年6月11日掲載
定説を覆す!!
—金子伊昔紅の句、実は…—
幸田露伴を調べていて現在でも金子伊昔紅(いせきこう)という俳名の作といわれている句、「元日や餅で押し出す去年糞」に別の作者がいることがわかった。幸田露伴は時間をかけて『俳諧七部集』を著わし評釈している俳句に詳しい作家。勿論、本人も作句している。露伴の甥に高木卓という芥川賞に決まったのに辞退した珍しい人物がいる。東京大学、獨協大学の両大学の教授を勤めた。ドイツ文学者である。彼が『露伴の俳話』の中で、—前述の句「元日や餅で押し出す去年糞」について披露している。高木が聞き書きしたものである。「しもがかるのは感心しない。野雪(嵐雪の弟子)がこういう句を奥にしてひとつ話になっている。『元日や餅で押し出す去年ぐそ』これなど野雪は元来おとなしい句風の人なのにどうしたものか」—と記している。高木は、昭和15年(1940年)から約2年間露伴宅で行われた、娘・文や親類、知人を集めた句の集まりでの聞き書きを本にしている。それが『露伴の俳話』である。
金子伊昔紅は明治22年生まれ。反戦句で名を成した金子兜太の父である。野雪は江戸前期の俳人である。時代は野雪が先だ。高木の『露伴の俳話』の露伴の野雪作品説がいつのまにか伊昔紅説になっている不思議。露伴が誤っているとは思えないが。
野雪の師は「ふとん着て寝たる姿や東山」の服部嵐雪である。当面この検証をするのが学芸員としての私の仕事である。
2019年6月7日 記