2023年1月23日掲載

去年、今年のささやかな楽しみ

 我が家に結婚以来、何十年間愛用していたツバイリングの青塗りの台所ハサミがあった。何年か前にその繋いでいたネジが折れて使えなくなった。自分でネジを直そうとしたがダメ。そこで何年もそのまま放置していた。昨年、三越に行ったときに家庭用品売り場で尋ねた。するとすでに廃盤になっているが、工場に出してみるので預かるという。

 あまり期待しないで一カ月ほど待った。電話があって治った、と言いその上、研いでおいたという。欣喜雀躍とはこのこと。飛んで行ってお礼を言った。学芸員のせいか古いものを大切にする性分なのである。大満足であった。

—嬉しさを二度も味わう—

 その後、思えば我が家には妻が独身時代から使っていた赤いポットがある。去年の暮、ふと目にとまり、手に入れた妻に改めて由来を聞いた。すると18歳の時にデンマークに行った際に手に入れた、コクムスというスウェーデンの琺瑯製品を作る会社の物だという。かすかな期待を持って、三越に尋ねた。同じ会社の薬缶(やかん)を並べてみたくなったのである。

 調べると会社は70年代になくなったという。新製品はない。ハサミのようにはうまくいかなかった。ところが二女がインターネットで調べると、国内のコクムス商品を扱う古物商を見つけることができた。福井県の店である。手に入れた。ポットと対になった。そこで大満足。

—私の日常の喜び—

 朝、コーヒーを入れるのが私の仕事。そこで嬉しいことが起きる。コクムスの薬缶の音である。沸騰し始めると、小さくチン、チンと湯気を吐き出し、鳴り始める。その音のかすかな響きが楽しいのだ。コクムス薬缶も仲間のポットと出会えてうれしいのだろう。二つ並んで台所を明るくしてくれている。

 年が変わり、メリアムも出版を待つばかりとなり、ほっとして息を抜きながらコーヒーを入れながら、次の本阿弥光悦の構成を考えているところである。ほら、薬缶のチリ、チリが大きくなってきた。コーヒーを入れよう。愛犬の雪見も起きたことだし。

2023年1月19日 記