2019年9月1日掲載

オリンピック・パラリンピック騒動の合間に

—東電福島第1原発の処理水処理—

 今ほとんどの国民は連日のわが国のオリンピック・パラリンピックの報道に熱病のように浮かされている。その間に今月21日、原子力規制委員会の更田委員長は、溜まり続ける処理水の海洋放出の決断を提案した。これは政府や東京電力に求めたものだ。もとになるのは政府が9日の小委員会で「タンクが2022年の夏ごろ限界になる」との試算をうけたものである。処理水とは溶け落ちた核燃料を冷やすために原子炉にかけているものだ。炉の損傷したところから漏れて下水と混じり高濃度汚染水となっているが処理して複数の放射性物質を除いたものが処理水で、大量のタンクに保管されている。この水には水と分離しにくいトリチウム、ストロンチウム90など放射性物質も含まれている。

—タンクの現状と東電の理屈—

 東電はこの七月までに円筒型のタンクは970本,計114万トンで処理水は一日に170トン出るという。貯蔵量は2022年までに約137万トンになりタンクの敷地は約23万平方メートルになると試算している。

 政府は処理水の処分には、海洋放出、水蒸気放出、地下埋設、長期保存など5つを選択肢としている。東電側は海洋放出を主張。しかし地元漁業者を中心に心配する声がある。国際的な不信があり、産物の輸出などは理解を得られていないという。

—トリチウム分離の技術も—

 問題のトリチウムは自然界にもあって水で薄めれば放射線も弱くなるといわれている。だが体内に蓄積すれば遺伝子を傷つける危険もある。新しい研究成果が昨年6月、近畿大学から発表されている。トリチウム水を分離して取り除くことに成功したと発表した。特殊構造のフィルターを開発して、これに汚染水を通すとトリチウムを含む水だけが残り分離したというものだ。その特別研究員の井原辰彦氏によると実験にとりくんでいて、来年の夏までに実用化のめどをつけたいという。

 東電は無責任にタンクを置く敷地がなくなった理由から海洋放出をいう。その場しのぎで原子力政策が今日までわが国ですすめられてきたお粗末さを、オリンピック・パラリンピックで狂奔する国民は知るべきである。

 この場でも主張したが終末からの発想こそ大切という私の考えを理解してもらいたい。

—終末から考える—

 良いことづくめではない人類の歴史、私たちの人生。この原発事故のような不都合を配慮し、必ずくる終末への備えをすること、大きく言えばそれが政治でもある。目の前の順調な流れにとらわれず事故や思いもよらない計画の破綻も可能性として考えておくことが大切なのだ。

 いま日韓や米中関係、英国のEU離脱など生活に影響する国際問題、国内の事故や事件が多発している。私たちは毎日の出来事に振り回されていて、冷静に考えることを忘れがちだ。派手な芸能界の騒ぎに耳目を奪われずに、もっと広く高い見地から生活を直視する場面が今であると自覚するべきである。

 福島原発事故が起きた時の恐怖を忘れてはならない。

2019年8月30日 記