2013年7月13日掲載

海音寺潮五郎と子母澤寛

 司馬遼太郎を知っていてもこの二人を知る人は少ないでしょう。歴史小説という分野を切り開いた戦記作家です。

 海音寺氏は鹿児島出身のNHKドラマにもなった『天と地と』『武将列伝』『西郷と大久保』などのある作家です。また子母澤氏は北海道出身。『父子鷹』など新聞記者の経験から聞き書き文学を確立しています。

 それぞれ明治生まれですので出身に大きな影響を受けています。海音寺氏は薩摩びいきで西郷や大久保を温かく見ています。また子母澤氏は江戸の風景や人情、世間の厳しさをよく描いています。子母澤氏は祖父が御家人で彰義隊の生き残りでした。私が現代語訳した幸田露伴にしても明治の人ですが、御家人という祖先の地位を自覚した人生観を持っていました。

 こう見ますと現代ほど人の行き来もなく、情報も伝わらないのですから、生まれた場所、家族に相当影響されることになります。

 ですから出身地を聞いて、人柄、性質、顔付きまで特定するようなことも少なくありませんでした。昭和三十年代までは、突然に知らない家を訪ねて「使ってください」という人も少なくありませんでした。そして試しに2、3日働かせてみて雇うことなどもあったのです。そのような日本社会の隅の事情をちりばめた歴史小説を書いた二人について、露伴を訳していて、興味を持って再読してその一貫性を知りました。

 司馬氏も歴史小説で成功しましたが、三者とも共通しているのは主人公の出身地と家族などを基盤にして生きていく人物や人物群を書いています。ただ司馬氏とこの二者では、当てる光源がLED電球と白熱球といった違いがあります。

2013年7月12日 記