2016年1月10日掲載

光派私説11

学芸員 和田宗春

 今年の干支は申・猿です。いま私が現代語訳しています『本阿弥行状記』の下巻、三四九の段に七猿の掛け軸という項が書かれています。

 それには書は沢庵和尚、讃と歌は中院通純卿とあり、所有者は江州の壷井氏で珍品とあります。七つの和歌は「さる」を折り込んでいます。

  1. 1.つくづくと浮世の中を思うにはましら猿こそまさるなりなり
  2. 2.つれなくもいとはざるこそうかりけれ定なき世を夢と見ながら
  3. 3.見聞かても言わてもかなわざるものを浮世の中にましる習いは
  4. 4.何事も見ればこそけにむずかしや見ざるにまさることはあらしな
  5. 5.聞けばこそ望みもおこれ腹も立ち聞かざるそげにまさるなりけれ
  6. 6.心には難波の事を思うとも人の悪しきをいわざるぞよき
  7. 7.見ず聞かず言わざる三つの猿よりも思はざるこそ勝るなりけれ

7つの歌に「さる」が生かされています。その意味についてはお考えください。なるほど、の知恵が生生と詠われています。

 この行状記は、学芸員資格を昨夏にとり、資格を生かして社会に還元するための初めての仕事です。

 都立の博物館、美術館、水族館のあり方に新提案する調査にこの資格を使います。

 光悦の行状記のもつ日本美術史での価値などについては後に記すことにします。完了まであと少しです。早起きの仕事が当分続きます。

2016年1月8日 記