2023年3月12日掲載

剣道との44年間の付き合い

[2]私を励ました軸と額がある

 段位にこだわった私について追追に触れることになる。それは剣道の段がその人を、人間を表すと考えるからである。単純な私は、剣道の段位はその人そのものだと思っている。全日本剣道連盟は、剣道の理念は剣の理法による人間形成である、と言っている。そのとおりと思う。

 その生き方をされた人の軸と額を持っている。軸は山岡鉄舟。江戸無血開城の大役を果たした人。額は岡憲次郎である。学生剣道とりわけ高校の剣道に力を入れられた。私の目指す教育剣道の手本である。

 山岡鉄舟は今回の審査の前夜に思い出して、取り出して見た。竹刀と面が描かれている上部に、「剣術の極意は風の柳かな」とある。この心境で行こうと決めた。山岡は無刀流の開祖、近代剣道の貢献者で、日本武道館に顕彰されている。ゆったりとした気持ちで立ち合おうと決めた。

 岡の額は「遅れれば梅も桜に劣るらん 先駆けてこそ花も香もあれ」というものである。相手より気で勝り、先に攻め技を出す、すなわち出端技の勧奨である。いま道場で指導している剣道会の教育剣道の技法の実践である。

 岡は高体連の役員をして、剣道普及に力を入れた。国際武道大学の学長を務め、八段選抜の優勝者で範士8段。剣道の裾野の拡大に尽力した。岡には二度ほどあった。この人たちの背中に学んでいくのには目標が必要と考えた。それが到底手の届かない段位、七段である。

—剣道は根本的には個人競技であり、すべては自分が決める—

 剣道は竹刀を振るだけではなく、考えることを要求する。相手はこちらに予期せぬ動きや打突を仕掛けてくる。対応しつつ、竹刀の交わる近さで隙をついて攻撃する。その攻め合いと打突の妙味に魅せられて止められない人が多い。私もその一人である。

 35歳で始め今日まで暑い夏、寒い冬に続けた結果が七段である。尊敬するふたりの二つの軸と額が、何度も挫折しようとした私に励ましを与えてくれたことは間違いない。誰も、何も頼れない暗中模索の稽古である。せめて先人の残した心の持ち様を、修行の基に据えたいという一念で口ずさんできた。

 野球、サッカーなどの集団競技と違い、すべては自分の判断と行動で決まる。それだけに自分が迷い始めると、フチなし沼に落ち込んだようになる。そんな時に相談できる師がいると助かる。経験からの助言がいただける。いなければ本や動画などの助け、あるいは私のように書や言葉から力を借りる。

 すべて自分で実践しなければ空文である。悩む人は多いと思う。悩みの世界から脱却するのがまた一苦労なのである。

※文中の敬称は略しました。

2023年3月16日 記