2023年6月5日掲載

剣道と44年の付き合い

【10】足が先、手は後

一拍子の打ちの意味

 竹刀で相手を打突するわけだから、手と上体が中心になって剣道は出来上がっていると思いがちである。これは一見、常識である。ところが常識と違うところに真理があるという皮肉がある。手と一番遠い足、それも左足の親指から三本の指の付け根に荷重して、右足を少し出して重心移動する。先革の触れた触刃から5、6センチ入った交刃ほどである。それでもまだ竹刀は動かない。剣先は、相手の喉あるいは左目を指したままである。相手から目を離さず観察する。気はもう打てる段階に入っている。右足を少し出し体が前進する慣性の法則も働いている。

 そこで瞬間に竹刀を振り上げて下す。一拍子の打ちである。この速さが大切である。いま簡単に竹刀を振り上げ振り下ろすと言ったが、簡単ではない。

体幹の重要性

 初動で右足を出して慣性を創る。それを竹刀にまで伝え、腕を振り上げ下げるのだが、その途中に腹、背中、肩、胸を総称する体幹を使うことになる。それも打つために効率よく動かさねばならない。体幹は肩甲骨、胸骨、骨盤などの骨格と腹筋、胸筋などの筋肉で出来ている。比較的鈍重な筋骨である。だがここを意識して鍛えておくと身体機能が数段と良くなり、敏捷性も増す。左右の足、体幹、腕、手首、竹刀と運動神経が通う、全体運動であることを認識しておくことが、私たちの教育剣道では必要なのである。体幹が創られれば足、体幹、腕、竹刀への運動連鎖が円滑になる。この体幹が整うと姿勢も良くなる。

攻めは下半身から

 攻めとは何か、どのようにするのかは、別に回を持ちたい。

 さて、竹刀の振りかぶりは足、体幹の移動が始まってからも、剣先はしばらく喉、左目に向けたままとする。左足を後ろに押して、右足が前進し体重が移動し、喉、左目を攻めてから振りかぶる。下半身が先で、竹刀の操作は後となる。この時差を理解すれば、剣道が深くなる。竹刀が最後に動くという、逆転の思想である。

 時間をかけて、練習すれば必ず一拍子の打ちは達成できる。重力を受け止める足の重要性は第4回で書いた。そこがまず移動して体幹、腕、竹刀へと運動連鎖していく。動きが円滑であれば、早くなる。早くなれば打突の成功する機会が増える。初動は竹刀を持つ手からではなく、一番遠い足からというところに常識を逆転させる興味深い事実がある。

 その足も、指の裏、足裏が見えないような使い方である。足裏が見えるという事は体が床と平行に移動していない証である。上下動があるという事で動きに、無駄があると言える。0.0何秒で勝負のつく打突には不要な動きである。スケート選手の短距離のスケート選手の動きを参考にすると、腰の高さは不動であることが分かる。これで0.00秒の速さを競っている。学ぶべき技術である。腰から下の無駄をなくしたつくり、構えを自分なりに身に付けることが大事である。

2023年5月 記