2023年4月1日掲載

剣道との44年間の付き合い

[4]自分の力以上のエネルギーを利用して行う素振り

 剣道も地上で行う業である以上、重力を受けている。であるから重力を知って、それを利用して体を移動させることが、無理のない動作ということになる。竹刀を振る時は、振り上げ、振り下ろす。そこで重力を考える。振り上げる時には、重力に対抗する力が必要となる。当たり前のことである。この原理を知って、意識して竹刀を振り上げることが大切である。意識しなくとも振り上げられるようになるまで続ける。振り上げにも、肩、肘、手首を使った振り上げのあることを知る必要がある。

筋肉の大、中、小を知る

 運動力学では、大きい筋肉から動かした方が効率的な体使いだということだ。そこで大きい筋肉で出来ている肩を使った面打ちである。おへそから一拳に離した左手と、小指だけで柄を握る感覚を持つ右手で竹刀を額まで、上腕二頭筋などを使って肩で引き上げる。竹刀と両腕で作る角度、手首の角度は変えない。引き上げたら相手の面金と面布団の境に向かった竹刀を振り下す。その時になって初めて肘を伸ばし、面に当たる時に手首を使って打つ。

 大きい打ちで前進力のある打ちができる。次は肘を使って、曲げる打ち。肩を使わず肘で竹刀を振りかぶる。剣先の描く円弧は肩の筋肉を使う時と比べて小さくなる。手首を使った打ちはさらに円弧が小さくなる。ますます全身の前進力は弱くなる。小手が固定されるので小手を打たれやすい。大きく振ることが妥当なわけがここにある。要は肩、肘、手首の大きい筋肉から動かして打つことが効率的ということだ。

さらに足の使い方、心の有り様も

 剣道では「足の踏み方、床を踏む」という。踏むとは上から下へ荷重すること。すなわち古くから重力の存在を剣道に生かそうとして、自然の力の存在を知っていたということだろう。荷重の仕方は真下に行うことが、効率的である。地球の物理学と剣道理論が一致する。古人は下駄の歯の減り方で体重のかけ方を学習した。自然の力学を上手に活用することで、剣道は楽しいものになる。さらに道を歩く時にも引かれている白線を踏んで撞木足にならないように訓練したりする。剣道を剣道だけで考えない。日常生活をする上であれこれ自由に剣道の上達を工夫、模索するのも修行に変化を与える。とくに子どもや女性は科学的に筋肉や骨格の使い方、驚いたり、疑ったりする心の作用も知って剣道をするのもよいかもしれない。

2023年3月28日 記