2024年1月31日掲載

剣道と44年の付き合い

【29】剣道教育に必要な要素2

3.生理、心理など健康、保健を考慮していること。

 相手も自分も竹刀を持ち相手を打突するということは、攻撃できるのと同時に攻撃される等分の可能性を持っている。真剣を持っているわけではなく、竹刀を持っている遊戯性がある。しかし、竹刀を持つ姿勢が正しいものであるとか、竹刀を操作するのが合理的であるとかが問われる。

 剣術であれば、結果の勝ちすなわち相手より早く急所を打突すればよかった。しかし明治以降は、剣道は人間形成の道とすることとなった。いたずらに精神論で鍛えたり、忍耐論で我慢させたりしないやり方をとるようになった。剣道でも人間の生理・体の仕組みや心理・心の動きなどを科学的に判断する必要が出てきた。生理で言えば筋肉の遅筋、速筋や骨格など体の動き、心理であれば平常時と攻撃、守備の時の心・精神の変化を理解することである。

 これらを身に付けて獲得するのには、多くの機会、時間が求められる。結果として、稽古時間の取れる警察関係、体育学校などの関係者が上達する機会もあり、競技大会の勝者になる可能性が高くなる。剣道を楽しむ人々はここまで詰めずに、自分の健康のために無理を体に求めず、生涯を通じて剣道を楽しむ工夫をすることになる。

 指導の中で医学用語を用い、骨、筋肉の具体名、特に白筋と赤筋などの違いとその鍛え方なども解説している。

4.社会とのつながりを意識していること。

 剣道は個人競技である。したがって、勝敗はすべて自分が原因である。勝つこと、負けることの原因を求めるにも、相手のことと同時に自分の対応も考える。どうしても自分中心的なものの考え方になる。剣道をする相手だけ、竹刀を交わす相手だけに没入する。勝つか負けるか、打つか打たれるかである。

 そのことだけを考え、集中することが上達の道と言われてきた。だが武道、剣道を国際的にして、世界の国々の剣士を増やし広げていこうとすれば、必然的に世界、国際的な見方を余儀なくされる。外国にも通じる規則、習慣を広げることと同義である。

 国際的になるためにはまず、国内で各方面と連携しなければならない。それには剣道が社会化して社会に関心を持ち、積極的に発言し、行動することである。政治的、宗教的に偏らない公正さを持ち、武道精神の捉え方を正しく規定することである。

 そして健康づくりから生涯剣道へとつなげていくことになる。戦後の剣道界の功労者の持田盛二範士十段は、剣道を個人の修練のたしなみに終わらせず、開かれた剣道を志向していた。現に「剣徳世を正す」と面手拭に揮毫している。私の持っている山岡鉄舟の「剣術の極意は風の柳かな」の掛け軸とともに大切な二つの宝物である。

 私たちの王子神剣会は以上の4要素を教育剣道として掲げている。「正しい剣道は、美しく強い」ということである。その実現のために武道精神の追及、社会との連携、海外との交流を目指している。ちなみに私たちの言うこの「教育剣道」の淵源は、東京高等師範当時の高野佐三郎の教育姿勢である。