2024年3月25日掲載

剣道と44年の付き合い

【31】剣道の技術と体力の関係

 巧緻性というのが、高齢者の身に着ける技術の前提である。辞書によると、巧緻性とは木目が細かく上手であるとしている。年齢を重ねると体力は、下降してくる。跳ぶ距離も高さも若いころとは比較にならない。 したがってこれを競うスポーツでは、結果は明らかである。

 だが、私の杖道の師である古川瞬也範士は得物というが、竹刀という介在物があることによって世界が変わる。体力だけ速さだけでは決まらない。またフェンシングのようにおおむね、相手と直線的に戦う競技とは違う要素がある。それは相互に三メートルの間を使っての競技という剣道の特性からきている。退いたり、左右の捌きが鍵となるからである。

 ただし視力は確実に正常でなければならない。先にも触れたが、座頭市はあくまで虚構の小説であって現実的ではないと、全日本剣道選手権者の伊保清次範士八段は指摘している。

 視力は肝心である。剣道を続けるのであれば、補強するべきである。

運動機能、科学的な知見を知った稽古

 また、若い人の早い直線の面打ちに対しても切り落としという鎬の作用で、勝てると岡憲次郎範士八段は指摘する。高齢者には岡範士の初動と慣性を工夫した打ち間の入りは、研究の必要がある。たまたま七十歳を超えた、伊保、岡両範士と若い七段が稽古をしているのを拝見する機会があったが、若い人たちは相手にされなかった。だれでもが高齢者になって両範士のように体を捌き、竹刀を自在に扱えるとはいえない。だが、この例を見るまでもなく、努力と工夫によって若い速さ、強さにも対応できて、さらに勝てるということである。

 だがここで指摘しておくのは、稽古時間である。普通の稽古は、だいたい二時間ぐらいであろう。だが高齢者は、一人と十分程度の稽古で三、四人までが適当ではないか。

 時間は全日本選手権大会でも五分である。課題を持って、気を入れて稽古をすれば一人、十分で足りる。防具を付けた自分の稽古は、正味、一時間ぐらい。あとは見取り稽古をし、要望があれば指導する。それを週、二、三回というところ。

 もちろん稽古前のウォーム・アップ、稽古後のクール・ダウンはかかさないことはいうまでもない。帰宅後のマッサージ、湿布などの手当ては、自分の健康管理と一日でも長く剣道を続けられるようにするための事後処理として行う。ここまで三十回の随想であった。ここで区切りとして終わろうと思う。またの機会に愚説を披露することがあればと思う。